真っ赤な秋に囲まれて

ANAGA Diary vol.23真っ赤な秋に囲まれて

木葉の紅や黄色が深みを増し、秋の歩みを教えてくれます。

秋といえば、澄み切った青い空を思い浮かべがちですが、
殊の外、雨が多いのも秋の特徴です。
雨に洗われた晩秋の淡路島で、瑞々しい秋色に出会いました。

秋霖(しゅうりん)秋雨(しゅうう)すすき梅雨など、
秋の雨には美しい呼名が多くあり、それぞれに、その降りかたの特徴を表しています。
絹糸のように降り注ぐ糸雨(しう)の向こうには、余情に満ちた雨景色が描かれます。
また雨の止み間、雨間(あまあい)には、海と空と雲そして差し始めた陽射しが、幻想的な空模様を浮かび上がらせます。

それらもまた、静かな秋の表情のひとつです。

淡路花さじきでは、満開のコスモスや、ブルーサルビアが秋微雨(あきこさめ)に濡れていました。

降ったり止んだりを繰り返しながら、雨は少しずつ澄んだ空気を運んでくるのでしょうか、
花に宿る雫は、雲間の青い空と、青い花びらを映し、玻璃色に輝いていました。

そんな淡路島の空や海の色にも近い藍色を染める工房が、淡路市釜口にあります。

ERiNi Natural Dyeingでは、
秋に摘み取った藍の種を、春に手撒きし、手植えをして丁寧に栽培します。

農薬や化学肥料を使用せず、環境負荷の少ない循環的農法で育てます。
そして刈り取った藍草の葉のみを選別し乾燥させて、冬の間水打ち、切り返しを数十回繰り返し、
約100日をかけて完熟発酵させ『蒅(すくも)』という染料を作っています。

ちょうど今の季節、畑では藍の花がいっぱいに種をつけています。
少し沈んだ赤い茎の色も、奥床しい秋のひと色に数えられるように思います。
大切に守り育てた藍を『おのころ藍』と名付け、おおらかで深くあたたかい藍色を創り出しています。

また、藍は、薬用植物としても古くから親しまれており、インフルエンザウイルスの増殖を防ぐ効果や、
抗酸化 抗がん作用もあるとされ、スーパーフードとしても注目されています。
藍茶は、ほのかにミルクのような甘い香りが漂い、リラックス効果の高い飲料です。

山辺には、一本取り残されたツリガネニンジンの薄紫の花弁が、秋風に淋しげに揺れていました。
桜紅葉、蔦紅葉、柿紅葉など、真っ赤に染まった木の葉達が、まわりをあたたかく囲み、寄り添うように揺れていました。

県立淡路島公園入り口のモミジバフウの並木道は、グラデーションの美しさを競っています。
紅葉は、木々の冬支度ともいわれます。

気温が下がり始めると、葉に送っていた水分を止め、
残っていた養分を急ぎ回収し、春に向かってしっかりと準備をします。
そのために、葉緑素を自ら壊し、葉を染め上げ紅葉が始まります。

秋の陽射しは、そんな冬支度を励ますように、心を込めて照らします。

まもなく、すべての色を晒し落とす寂しく冷たい風が吹き抜けます。
それまでのひと時ひと時、秋色は絶え間なく変化し続けます。

南あわじ市諭鶴羽ダム公園、淡路市久野々の常隆寺、長澤の東山寺は、淡路島の紅葉の名所です。
天然記念物のスダジイやアカガシの群落に包まれ、
厳かな中で真っ赤な秋を惜しむのも清々しい一期一会ではないでしょうか。

鎮守の杜は、稲刈りを終えた田畑の中で静かに佇んでいます。
遥か遠い昔からずっと変わらず、四季の色を見守り続けてきました。
カラリカラリと糸を紡ぎ続けている、そんな糸車のようにも見えました。