冬の歩み 凜々と

ANAGA Diary vol.24冬の歩み 凜々と

すっかり葉を落とした木立の間を、冷たい風がヒュルヒュルと吹き抜けていきます。
秋の間、しきりに鳴いていた虫達も、今は体を寄せ合い、
わずかな温もりを絶やさぬよう、じっと静かに春を待っています。

枝が擦れる音や、枯れ葉の舞う音が耳に響き、
『おおさむ こさむ 山から小僧が 泣いてきた・・・』という素朴なわらべ歌のメロディーにも重なります。
冬枯れは静かな冬のひと色です。

淡路島西側の海辺も、表情を一変させます。
凍てつく強い西風は、大きなうねりを起こし、白波を立たせます。

激しくぶつかる波しぶきが、海岸沿いの道路にまで飛んでくる日も少なくありません。
海の色は深まり、凛然と冬の到来を告げます。

畑も冬化粧をします。

南あわじ市では、野菜のトンネル栽培が盛んで、一面に白い海が広がります。
畝が強い風に煽られ、音を立てて波打つ姿からは、刺すような冷たさが伝わってきます。
吹き飛ばされそうになりながらも、身を呈して野菜を守る、畑の戦士の一群です。

『寒の田起こし』という、冬の農作業があります。
ざっくりと土を掘り起こし、土中にいる害虫や病害菌を寒さに晒します。
出来るだけ農薬を使わず美味しく安全な米を育てる為の、寒さの活用術といえます。

セキレイをはじめ、鳥たちが畔道をチョンチョン飛び歩いているのも、
思いがけないご馳走に遭遇する楽しみを知っているからなのかもしれません。

冬の色は、彩度の低い冷たい色ばかりではありません。

南あわじ市の灘黒岩水仙郷の辺りでは、寒風に乗って甘い香りが漂います。
諭鶴羽山が海に落ち込む、45度の急斜面一帯に500万本を超える日本水仙が咲き乱れています。
国生みの島沼島を遠くに望み、青い海、青い空にくっきりとうかぶ真っ白な水仙の花の群。

清々しさに圧倒されます。

深呼吸をすれば、澄んだ風と香りが身体中を走り抜けていきます。
水仙は何故、酷寒のこの時期に花開くのでしょうか?
何故、強い海風にさらされながらこんな急斜面に咲くのでしょうか?
余りに清楚なその花姿に、思わず問いかけたくなります。
少し頭を垂れながら、ただ、黙って可憐に揺れる花の辺りには甘い香りが溢れ、
水仙の咲みが応えてくれたようにも思えます。

傍らでは、梅の蕾がふっくら膨らんでいます。
先端には、しっかりと花びらが顔をのぞかせています。

紅梅が一輪、白梅が一輪ほころんでいました。

服部嵐雪の句『梅一輪一輪ほどの暖かさ』が浮かびます。
そっと手をかざすとほのかなあたたかさがふわりと伝わるような気がします。

あわじ花さじきや、国営明石海峡公園では、早咲き菜の花が満開です。
黄色い花びらに宿った陽の光がこぼれ落ちそうで、春の先駆け隊の弾んだ歩みが聴こえるようです。

冬の観潮もまた格別です。
百羽を超えるカモメに伴われ、クルーズ船は、波静かな福良港を滑るように出航します。

沖に出るにつれ、波は高く、風も冷たく吹き付けます。
波しぶきを浴びながら、寒風に晒されるのも、冬観潮の醍醐味なのかもしれません。
国生みの島に科戸の風(しなとのかぜ)が吹くならば、穢れを払い、明るい未来を招いてくれることでしょう。

眼前に広がる大きな渦を観ていると、自然の底知れない力強さを感じます。
銀河は渦が回り続けることで安定的な構造になるという説もあります。
また、太古の昔から、エネルギーの流れを象徴するものとして、渦巻きや螺旋模様が用いられてきました。

『渦』は膨大なエネルギーを蓄積する姿だと思います。
冬は、今ゆっくりと季節の螺旋階段を下っているようです。

少しずつ遠ざかるその足音は、
本当は春を迎えにいく力強い響きに変わっているのかもしれません。