水面きらめいて 『夏は来ぬ』

ANAGA Diary vol.19水面きらめいて 『夏は来ぬ』

水辺が涼を誘う季節となりました。
淡路市浦の本福寺水御堂では、紅や白の睡蓮が、水面を華やかに彩っています。

睡蓮といえば、フランスの画家 クロード・モネの作品が有名ですが、
仏教の世界でも、浄土を象徴する花として大切にされてきました。
汚れた泥に根を張りながらも、清らかな美しい花を咲かせることから、
仏の知恵や、慈悲の心にも通じる崇高な花とされています。

水面は、角度や場所により、時に空の色を映し、周囲の緑にも染まり、また風が吹くと、その表情は繊細に揺らぎます。
光の画家ともいわれたモネが描き続けた、睡蓮と光のきらめきは、限りなく豊かに広がります。

淡路市長澤地区では、田植えを終えた棚田に水が張られました。
緩やかな曲線が、陽の光を反射し、空を切り取った鏡の様にキラキラ輝いています。

そんな棚田の先には、紫陽花で有名な『あわじ花の歳時記園』があります。
一帯を埋め尽くす紫陽花と、満開の白い栗の花が『梅雨』という季節を爽やかに包んでいます。

都会では、めったに姿を見ることがなくなった、かたつむりにも出会います。
殻を背に、のんびり葉の上を進むかたつむりを目にすると、懐かしい驚きの心が呼び覚まされます。

『デンデンムシムシ カタツムリ お前の目玉はどこにある・・・』
ユーモラスで愛らしいその姿は、子供達にも人気が高く、
新美南吉の『でんでんむしのかなしみ』をはじめ、多くの童話や絵本にも登場しています。

また、淡路島には、夕日の美しい地も数多くあります。
約2万3000ヶ所もあるとされるため池は、
淡路島の年間降水量が少ないことや、大きな河川がない立地条件の中で造られてきました。
今では豊かな自然の一部となり、美しい景観を作りだしています。

室津池の夕陽は、空を鮮やかな紅色に染め、今日一日の出来事を雲と対話するようにゆっくりと沈んでいきます。

時に微笑み、時には頷くように陽は山の向こうに帰ってゆきます。
辺りは鳥のさえずりとカエルの鳴き声だけが響き、静寂に包まれています。
夕陽に感謝という、忘れていた素朴な気持ちがふっと浮かんできます。

室津ビーチに沈む夕陽は、海原に一本の光る道を描きます。
この時期は一年で最も日が長く、照らし疲れた太陽がようやく家路につく姿なのかもしれません。
もう一度静かに海を振り返り、見守りながら去っていく様にも思えます。

すっかり夜の帳が降りる頃、淡路島では、この時期、蛍の舞う地がいくつかあります。

淡路市田尻川の川面にも、やわらかな蛍の灯が飛び交います。
流れる水音に耳を澄ませていると、ゆっくりと弧を描き、ふっと消え、またふっと飛ぶ、幻想的な舞台が幕を開けます。
成虫は夜露か川の水しか飲まないため、その寿命は一〜二週間といわれます。
微かな命を削る様に輝くその灯りは、儚くまた床しく川面を照らします。

雨上がりの散歩は、雨雫に宿る光の芸術を楽しむ機会でもあります。
今年も恵みの雨を存分に受けて、豊かな実りの時が訪れますように・・・。
小さな雨粒はそんな風にひとつひとつ落ちていく様にも思えます。