海の苞(つと)山の苞 里の苞 それぞれに

ANAGA Diary vol.17海の苞(つと)山の苞 里の苞 それぞれに

春が少し進んだこの季節、自然から様々な贈り物が届きます。
源氏物語第十帖に、『山苞(やまづと)に 持たせ給へりし 紅葉・・・』という一節があります。
苞とは、藁を束ね、中に土産物を包んだ器を意味します。
春という季節が届けてくれるその贈り物を表すのに、とても相応しい言葉のように思います。

海の苞
 お伽話 『浦島太郎』では、助けた亀に連れられて太郎は竜宮城へ行きました。
もし、その季節が春だとすれば、おそらく、もてなしの一品は、春わかめではなかったでしょうか。

淡路島は、全国有数のわかめの産地でもあります。
紀淡海峡、鳴門海峡という滋養に富み、速い潮流にやさしく、
また厳しく育まれたわかめには、豊富な栄養分とともに、格別の食感があります。
特に4月初めまでの春わかめを刺身、しゃぶしゃぶで食すると、
潮の香りとシャキシャキした絶妙の味わいに驚嘆します。

浦島太郎はあまりの楽しさに時の経つのを忘れてしまいましたが、
春わかめにも、その魅力の一つがしっかりと備わっているように思えます。

特に水深2メートルから3メートルに根付くわかめは、
降り注ぐ太陽の陽と豊富な海の恵みを存分に吸収し、その品質の高さでは群を抜いているとされます。
箱メガネでのぞきながら、鋭利な鎌ですばやく刈り取り、流れに負けることなく鎌の根元ですくい取る熟練の技。
その技があってこそ採りたて、極上の味わいです。

里の苞 山の苞

 陽の当たる畔や土手に目を凝らすと、枯れ草を押し分けて、土筆がひょっこり顔をのぞかせているのに気づきます。
何ともユーモラスな形で、子供達からも愛され、
『つくしだれの子 杉菜の子・・・』というわらべ歌も歌い継がれています。
少し手間はかかりますが、はかまを取り、アクを抜いてお浸し、
卵とじなどで食すると、ほろ苦さと共に、独特の春の風味が広がります。

麗らかな陽射しの中、わらび、イタドリ、タケノコ・・・と
探しながらの散策も、また楽しい季節の迎え方ではないでしょうか。
強いアクを取り除きさえすれば、冬の間に蓄積された脂肪や老廃物を排出するとされる優れた食材ばかりです。

また、淡路市一宮町にある淡路島公園ハーブ園でも、
春を迎え、色とりどりのハーブが出迎えてくれます。
金盞花も満開の時を迎えました。

その黄金色の花びらは、肌に良いなど薬用としても古くから珍重されてきました。
乾燥させてお茶にしたり、袋に入れて入浴の際に浮かべたりとその楽しみ方は広がります。
フクシア、ストレプトカーパス、ゼラニウム、ラベンダー、などハーブ達の祝宴は続きます。

今年のソメイヨシノは少しゆっくりとその開花の時期を迎えました。
南あわじ市諭鶴羽ダム公園でも、ダム湖沿道2㎞にわたり、約800本のソメイヨシノが薄桃色の世界を描きました。

静かな湖面には、満開の桜が緑の山肌を背にくっきりと映り、
湖の中にも満開の桜が咲いているようで、不思議な空間が広がりました。
湖面に映る桜色のさざ波は、滑るように揺らぎ、さながら神楽を舞う裾模様の様でもありました。

まもなく、舞手は蛍へと変わります。
束の間の命を懸命に灯し、舞うその姿は、儚い幽玄の世界へと誘います。
夏の訪れを告げるその静寂の瞬間を、そっと愛おしむのも、とても贅沢な時の過ごし方ではないでしょうか。

茶色のみだった畑では、今、緑のグラデーションが行進中です。
新緑の時を迎え、新しい季節もまた贈り物の準備に余念がありません。

古代より御食国として朝廷からのお墨付を賜った淡路島には、春を寿ぐ苞が目白押しです。

風の香りも少しずつ変わります。
生まれたての若葉を揺らす風は子守唄のように軽やかです。