夏の置き土産 御食つ国 淡路島にて

ANAGA Diary vol.03夏の置き土産 御食つ国 淡路島にて

季節に『力』があるとしたら、先ず一番の力持ちは、夏だと思います。
強烈な陽射しを前に、この季節、人は少しだけ謙虚になるような気がします。
木陰のやさしさに気づき、夕立のもたらす涼やかな風に、感謝の気持ちを覚えます。

四季を通じて、多彩な花々が迎えてくれる淡路島ですが、
夏は、特にはっきりとした主張をもつ花達がめだちます。
夏色の空や雲に似合う色を、花達自らが知っているからなのでしょうか。

空・雲

キョウチクトウの花

ノーゼンカヅラの花



けれども、そんな強い夏もそろそろ終わりを告げようとしています。

風になびくススキの穂も、風の色が変わったことを知らせています。

誰もいなくなった波打ち際の流木からも、
去り行く夏の伝言がきこえるような気がします。
誰かが、そっと置いたのでしょうか?
ひとつの巻貝、それもまた、夏の置き土産なのかもしれません。

尾崎漁港の漁船

三十六歌仙の一人、山部赤人が、
『朝凪に 櫂の音聞こゆ 御食つの国 野島の海人の船にしあるらし』と万葉集の中で淡路島を歌っています。
野島の近く、尾崎漁港でも、今夏もまたたくさんの魚が穫れました。
それらは、神への贄としてだけではなく、夏の海からの贈り物としてたくさんの食卓を賑わしました。
勇壮に並ぶ漁船達ですが、その陰に、そこはかとなく寂寥感を感じるのも、また夏のひとつの置き土産のようにも思います。

夏野菜収穫図鑑

けれども、晩夏の佇まいは、そんな寂しさを感じさせるものばかりではありません。
丁寧に世話をされた小さな畑からは、誇らしげな夏の収穫野菜図鑑ができていました。
どれもこれも、独特の甘みがぎっしりとつまった極上の味です。
「さあ、どうぞ、このまま召し上がれ」笑いながら語る、明るい晩夏の表情がうかがえます。

夏野菜を使った料理

夏の魚を使った料理

そして、採れとれの夏野菜達はシェフの手によって、更に美味にまた華麗な姿に変貌します。

力持ちでありながら、細やかな心遣いも『夏』は合わせ持つのでしょうか。
どれもこれも栄養価に富んだ食材ばかりで、暑さによる疲労回復には効果覿面です。

小さくなった蝉の声に代わって、草むらからは虫達の歌が聞こえてきます。
その演奏にのせて、夏からの最後のことづけが、聞こえてくるような気がします。
「私が力をこめて、育てた秋の味覚達の収穫がもうすぐそこに来ています。
食の宝庫であるこの島に、美味の絶頂期がやってきます。どうぞこの美味を御堪能ください」という
晩夏からの招待状のようにも聞こえます。