冬の機織り

ANAGA Diary vol.13冬の機織り

カタン カタン という機(はた)織りの音を耳にすることは稀になりました。
七夕伝説の中では、天の川の西岸に住むという織姫が、五色に輝く美しい機を織ったとされます。
そしてその機(はた)は美しいばかりでなく季節ごとにその彩りまで変わったとか。
もし冬の機を織り上げるとすれば、その織り糸はどんな色合いになるのでしょうか。

冬の彩りを見つけに兵庫県立淡路島公園、国営明石海峡公園を訪ねました。
400haを超える広大な敷地には、ゆったりとした遊歩道が続き、四季折々の風情が楽しめます。

東浦口ゲートを入るとすぐに、高さ4m 長さ30mの『花火鳥』(はなひどり)が出迎えてくれます。
阪神大震災からの再生と復活の祈りを込めて作られたオブジェです。

来年は酉年。いよいよ本番です。
新年早々どんな鳥がここで花開くのでしょうか。

園内には、針葉樹(常緑針葉樹 落葉針葉樹)、広葉樹(常緑広葉樹 落葉広葉樹)、
草花など多岐にわたる植物が植栽されています。
ポプラの並木路 メタセコイアの並木路 モミジバフウ(紅葉葉楓)の並木路などが伸びやかに広がります。
中でもこの季節、黄金色に輝く落羽松(ラクウショウ)の木立は一際目を引きます。
小さな実をたくさん飾ったその姿は、壮大なクリスマスツリーのようにも映ります。

百日紅の周りには、真っ赤な絨毯がひろがっていました。
しばしの別れを惜しむかのように、重なり合う落ち葉が静かに樹を取り囲んでいました。

思いがけず冬の桜にも出会います。
冬咲き桜、二季咲き桜とも呼ばれ、秋から冬にかけて花開きます。
冷気漂う空の下、濃さを増す常緑樹の緑の中で薄紅色に咲く桜。
そこには満開の桜とは異なる楚々とした美しさが感じられます。

あんずの紅葉葉は透き通るほどに軽やかです。
乏しくなる陽射しを懸命に補うかのように、パステル調のやわらかなやさしい光で辺りを照らします。

そして冬枯れの林には、来年の春を探す楽しみもあります。
樹々に近づくと、元気な冬芽(とうが)が随所に顔を出しているのに気づきます。

芽鱗でしっかりと包まれた冬芽、毛で包まれた冬芽、裸芽など色も大きさも様々です。

 与謝蕪村の 『斧入れて 香におどろくや 冬木立』 という句があります。

 葉を落とし一見枯れているように見える樹々の中では、春へ向けての準備が脈々と息づいています。
小さな芽の中で縮こまった花や葉は、密やかな鼓動と共にじっと春を待ちます。

春咲き球根の植え付けも進んでいます。

都会では滅多に見ることができなくなった冬の風物詩、蓑虫(みのむし)にも出会います。
淋しそうに風に揺れるその姿が、冬へと向かう物哀しさと重なるのか、古くから多くの俳人にも詠まれてきました。

『みの虫や 啼かねばさみし鳴くもまた』   酒井抱一

 自ら衣を作らなければ蓑虫は命を繋げません。季節の移り変わりと真正面から向き合うしか術のない植物や動物。
彼らには人知を超えた知恵と能力が備わっているように思えます。

南あわじ市の畑では、今、ビニールのトンネルが次々に取り付けられています。
玉ねぎと並んで高い収穫量を誇る淡路島レタス。
甘みが強く、香りも良く、肉厚でシャキシャキした食感の良さがその主な特徴です。
温暖な気候に恵まれた淡路島にあっても尚、生産者のさらなる努力と工夫は続いています。
さざ波の様に連なるビニールトンネルは、より美味しいものをという願いのこもった冬の風物詩のひとつなのかもしれません。

そして淡路島の冬といえばふぐ。
福良港の三年トラフグは特にその豊かな味わいが絶賛されます。
身の締まり、歯ごたえ、旨味が格別とも評されます。
鍋に暖をとりながら、冬の機(はた)の移ろいに心を寄せるのも
『大和心』『もののあはれ』にも通じる冬の醍醐味ではないでしょうか。

   十二月半ばに迎える冬至は『一陽来復』ともいわれます。
『冬来りなば春遠からじ』冬至は、いの一番に春を迎える日でもあるそうです。
心の中に新しい佳き願いを抱くというのも、ひとつの冬芽の姿のように思います。

※2016年の冬至は12月21日です。