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ANAGA Diary vol.10萌える万緑 涼風の音色に心惹かれて
岸辺に押し寄せるさざ波のように、涼風が密やかに息吹き始めました。
古今和歌集の中に、ちょうどこの季節を詠んだ歌があります。
『秋来ぬと 目にはさやかに 見えねども 風の音にぞ 驚かれぬる』
藤原 敏行
辺りをいくらさがしても、未だ秋の気配を見つけることは難しいけれど、
風の音の変化が、その兆しを教えてくれたという歌のようです。
秋を待ちわびる気持ちには、今も昔も変わりがないように思いますが、
五感の豊かさにおいては隔世の感があるように思います。
『風の音』にどんな変化があるのでしょうか。
それを探しに、洲本市鮎屋の滝と南あわじ市諭鶴羽ダム公園へと向かいました。
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鮎屋の滝
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激しい水しぶきをあげて滝壺に落ちていく水。
水滴を運ぶ涼風がからだを通り抜けていきます。
耳を澄ませば、葉が擦れる柔らかいかすかな音色が、風の存在を知らせてくれます。
『風物詩』という言葉がありますが、
風はそれぞれの季節の何かを運びながら詩っているというその表現にも共感を覚えます。
幾重にも木の葉が重なり、照りつける日差しまで青く染まったように見えます。
時々木の葉が揺れると、蝉時雨の中に涼やかな伴奏が加わります。
奥の細道の旅の途中、松尾芭蕉が奥州平泉で詠んだ句に、
『夏草や兵どもが夢のあと』
があります。
幾多の戦を眺め、世の無常を目にしながらも、夏草は変わらず生い茂っている。
けれども、その生命力溢れる夏草もまた、早、枯れゆく時を直前に迎えているという意味でしょうか。
圧倒するような強い緑もこの季節のみの儚い彩りかと思うと、過ぎ行く夏に惜別の気持ちもわいてきます。
アキアカネ、オハグロトンボ、シオカラトンボ、オニヤンマ、アオスジアゲハ、クロアゲハなど。
昔、トンボは秋津ともよばれ、前にしか進まないその習性から勝ち虫とも呼ばれていたそうです。
また稲の害虫を捕食することから豊穣の象徴ともされてきました。
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水を求めて
虫達は、秋風の音が感じ取れるのでしょうか。
限られた季節を精一杯に生きようとする健気な羽音には、そんな思いが隠れているようにも思えます。
強い日差しをはね返すようなはっきりとした色調のものが目立ちます。
通り過ぎる風もマーチのように前を向いてリズミカルに吹いているのでしょうか。
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深い緑の葉陰には、すでに小さな実が、花からのバトンを受けて、しっかりと育っています。
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椿の赤いつやつやした丸い実
童謡 『小さい秋みつけた』
誰かさんが 誰かさんが 誰かさんが見つけた
小さい秋 小さい秋 小さい秋みつけた
目隠し鬼さん 手のなる方へ 澄ましたお耳にかすかにしみた
呼んでる口笛 百舌の声 小さい秋 小さい秋 小さい秋みつけた
この歌詞でも、やはり、秋はまず真っ先に澄ました耳に届いたようです。
小さい秋がもうすぐそっと静かに風にのってやってくるかもしれません。
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時折吹き抜ける涼風の音色に耳を傾けながら、
過ぎ行く夏のからのメッセージを一つずつ開いてゆくのも、秋を待つ楽しみの一つではないでしょうか。