初夏の淡路島 緑と光と風の三重奏 ~アンサンブルの妙に心揺れて~

ANAGA Diary vol.08初夏の淡路島 緑と光と風の三重奏 ~アンサンブルの妙に心揺れて~

国生み伝説の残る南あわじ市、沼島。

その山道を辿ると、季節が奏でるさまざまなハーモニーに出会います。
満開の後のソメイヨシノには、小さな赤い実が付点音符のように寄り添っています。
緑の重なりが、陽射しの道に繊細なグラデーションを廻らせ、吹く風には軽快な曲調が感じられます。

雨上がりの午後、草葉の露に陽が煌めきます。
連なる楽譜のようでもあり、緑の奥へ奥へと音色を誘い、紡ぎ上げてゆきます。

雨上がりの午後、草葉の露に陽が煌めきます。
連なる楽譜のようでもあり、緑の奥へ奥へと音色を誘い、紡ぎ上げてゆきます。

黄色いカタバミの群生が、生命の歓びを全身で表現しています。
クルクルとワルツを踊っているようでもあり、季節の宴がたけなわであることを教えてくれます。

通りの石垣に咲く野花の上を陽射しと風が滑るように流れて行きました。
小さな打楽器が小刻みに打ち鳴らされ、優雅な舞曲が聴こえてきます。

そして緑のトンネルの先には上立神岩がそびえています。

海面から高さ30m、
そそり立つ奇岩への驚きと畏怖の気持ちがさまざまな伝説を残しました。
日本には国生み神話がいくつかありますが、この沼島もその有力な候補地です。
古事記には『天の浮橋に立ち 沼矛を指し下ろして 流れ漂う海を 泥の混じる塩を、
許袁呂許袁呂とかきまぜて引き上げたところ、
その先より垂落る塩 累積もりて島となる・・・』とあります。
大海原を背景に大小さまざまな泡がリズミカルな響きを添える中、
沼矛でかき混ぜたコオロコオロという音はどれほど壮大なものだったでしょう。

上立神岩には、天の御柱や竜宮城の表門などの伝説も残ります。

古代、自然を前に、民の胸の中には畏敬に満ちた曲想が宿り、
神秘的な交響曲がいくつも浮かんでいたのではないでしょうか。

本島に戻れば、田植えを前に、畑では、特産の玉ねぎの収穫がピークを迎えています。
頭を垂れたカラス麦の穂もシャカシャカ賑やかにリズムを刻み、実りの祝歌を唄います。

広大な花畑ではヒナゲシの大合唱に合わせて、風も光も自由闊達に初夏を謳歌しています。
下を向く蕾と天を仰ぐ花、雲間を交差する光の綾は変化に富み吹き抜ける風がその歌声を天まで届けそうにも思えます。

5000年近く前のミノア文明の頃から、人々に愛されてきたその可憐な姿。
それは、フィンランドのマリメッコ社のウニッコシリーズで今もなお、世界の人気を集めています。
陽気で華やかなヒナゲシの花は、初夏とは最高のアンサンブルを醸し出しているのかもしれません。

プログラムは時事刻々と変わります。

その日その時だけのアンサンブル。

それを心ゆくまで味わうのも、
爽やかなこの季節ならではの愉しみなのではないでしょうか。